コロナ自粛解禁後の出張者と空港のいま
- 2020.06.30
- コラム
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、4月7日に発令された緊急事態宣言は5月25日に全国で解除。県境をまたぐ移動自粛も6月19日、ようやく解禁となった。段階的に経済活動が戻りつつある中、ビジネスマンの出張状況や空港、航空会社の受け入れ体制はどうなっているのか。航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏らに、緊急事態宣言下から現在に至るまでの空港・航空状況を詳しく聞いた。
4月16日昼、羽田空港第2ターミナルの様子(撮影:鳥海高太朗氏)
緊急事態宣言下の空港。そこはまるで廃墟のようだった
「羽田空港と成田空港の人が目に見えて減ったのは、緊急事態宣言が発令された後の4月15日ぐらいから。航空会社は宣言の後、当初3〜4割だった欠航便を一気に増やしました」
そう語るのは、航空・旅行アナリストの鳥海氏だ。成田空港では昨年4月の国際線航空旅客数が2,989,337人であるのに対し、今年4月は98%減の69,849人。また国内線航空旅客数は昨年4月が586,363人だったのに対し、今年4月は71,172人にとどまった。空港にいかに人がいなかったかがわかる。
特に空港が閑散としていたのは、ゴールデンウィーク。この時の国内線欠航率は、全日本空輸(ANA)が85%、日本航空(JAL)が70%だった。鳥海氏は4月29日の午前中、羽田空港に長く滞在したそうだが、ほとんど人気がなかったという。
「昼間でも人がいないので、廃墟にいるようなイメージです。乗客もスーツ姿の方はおらず、家族の見舞い・介護・葬式など、止むに止まれず移動する普段着姿の人がほとんど。ANAもJALも保安検査場を半分閉めていましたね。地上係員も4月から一時休暇に入っていて、1か月に10日程度の出社だった。そうなると一番大変なのは、客室乗務員。5月は2〜3日しか仕事がなかったそうです」(鳥海氏)
4月16日昼、羽田空港第1ターミナルの様子(撮影:鳥海高太朗氏)
緊急事態宣言下でも国内出張に行かざるを得なかった人がいる。それが都内在住、調査会社に勤務するA氏(40代・女性)だ。新型コロナウイルス流行前は、月に10回以上は飛行機移動を伴う出張をしていた。
感染が拡大する中、A氏は業務遂行のために、本来ならば公共交通機関を使っていた仙台、長野、名古屋までは、自身の車で移動していたという。しかし北海道への出張は、飛行機を使わざるを得ない。その時の様子をこう語る。
「緊急事態宣言下でも、北海道には2週に一度、出張に行っていました。東京〜札幌便は通常ですと約40便ありますが、この時は80%減便だったため、座席はかなり埋まっていました。この時期は北海道出張だけでなく、子どもがいるため出張に行けない同僚に代わり、自家用車での近県出張も増えていました」(調査会社・A氏)
機内にビジネスマンが戻ってきたのは5月下旬。大手企業の利用者はまだ
4月16日昼、羽田空港第3ターミナル の様子(撮影:鳥海高太朗氏)
それにしても欠航が相次いでいた国内線は、いつ頃から人出が戻り始めたのだろうか。航空・旅行アナリストの鳥海氏はこう解説する。
「5月21日に大阪府・京都府・兵庫県の緊急事態宣言が解かれましたが、その直後の5月23日ごろから明らかにビジネスマンが空港に戻り始めました。まだ欠航便が多い時期でしたが、座席数が足りないため臨時便を出したり、飛行機自体を大きいものに変えたりしていました」(鳥海氏)
5月25日には、東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・北海道の緊急事態宣言が解除となった。赴任先にカンヅメとなっていた大手企業の単身赴任者が、自宅に帰り始めたのもこの頃だ。ここで一気にビジネスマンの動きが加速する。「5月末は、便によっては7〜8割の座席が埋まっていた」との鳥海氏のコメント同様、調査会社のA氏は、こう語る。
「緊急事態宣言解除後は、仕事の量も一気に戻ってきて、急激に忙しくなりました。大手企業はまだまだ出張自粛でリモートワークが続いています。本来であればクライアントである大手企業が行う仕事まで、私に依頼が舞い込んできます。なので、今はとても仕事が立て込んでいる状態です」(A氏)
6月1日午後、羽田空港第2ターミナルの様子(撮影:鳥海高太朗氏)
現在の出張者は、A氏のような中小企業のビジネスマンや個人事業主が多い。鳥海氏によると、羽田発の大阪便、福岡便、札幌便、那覇便といった主要路線にビジネスマンが集中しているという。
「地方路線の集客はまだなかなかですね。まだ地方では、東京に対する警戒感が強くて、関東からまだ人が来てほしくないところがある。6月4日以降、2週間で福岡に2回、大阪に1回行きましたが、やはり機内はビジネスマンばかりでした」(鳥海氏)
7月にはANA・JALともに当初事業計画の50%復帰
6月18日、ANAとJAL は7月国内線の運航計画をそれぞれ発表した。ANAの7月の運航本数は、減便率が約70%だった6月から一気に増加し、当初の事業計画と比べ51%と約半数まで回復することとなった。JALは54%減便の6月後半に比べ、7月前半で国内便の47%減便まで回復させる。
コロナ前後で大きく変わったことがある。感染症対策の取り組みにより、空港では乗客の協力が不可欠となった。まず国内線利用者はマスク着用をし、保安検査場前にてサーモグラフィーによる体温測定を行う。37.5度以上の利用者は搭乗不可、または各航空会社の地上係員との相談となる。出発時のアルコール消毒は、チェックイン前、チェックイン後、保安検査後、出国審査後に行われる。
6月4日、ANA国内線では紙パックのお茶を提供している(撮影:鳥海高太朗氏)
以前、地上係員が一枚一枚手渡ししていたチケットは、接触しないサービスとなった。航空アナリストの鳥海氏は機内で大きく変わったのは、飛行機を降りる時だという。
「以前なら着陸してシートベルトサインが消えたら、利用者はその段階で立ち上がって荷物を頭上の収納棚から下ろしていましたが、今は『何列目までの方はお降りください。その他の方はそのままお待ちください』とアナウンスされます。飛行機を降りる際、ソーシャルディスタンスを守るために時間を取るようになりましたね」(鳥海氏)
そのほかANAとJALは、機内の飲み物はパックのお茶となり、機内誌の使い回しがなくなった。現在JALは座席シートのポケットに機内誌を入れているが、ANAは客室乗務員に声をかけて持ってきてもらう形を取っている。
また鳥海氏は、空港までの公共交通機関にも注意を払う必要があると語る。
「電車は減便しませんが、バス便がものすごく減っています。駐車場はガラガラなので停めやすいですけどね(笑)。あとは空港内のレストランもまだ閉まっているところもあるので、空港で時間を潰しにくくなりました 」(鳥海氏)
会社から国内出張を命じられたら気をつけたいこと
6月4日、羽田空港第2ターミナルの様子(撮影:鳥海高太朗氏)
緊急事態宣言下でも北海道出張があったA氏は、感染に対する自己防衛をこのように行っていた。
「知らないうちに自分が罹患している可能性があったので、同居の家族のみならず、人にうつす恐怖がありました。東京近郊にある実家には、3月から訪ねていません。とにかく感染予防を心がけ、人にお会いする時は、前後に除菌シートとジェルで、手を清潔にしていました。うがい手洗いは必ず行っていましたね。常に気を張っているため、私自身の感染予防疲れもありました」(A氏)
またA氏が勤める会社の感染対策は、このようなものだった。
「現在も2週間に一度、全社員が抗体検査を受けています。万が一陽性とわかった場合でも、その期間の行動が追えるようにとの社長判断です。除菌シートなどの経費は、全額会社持ちですね」(A氏)
空港がかつてのにぎわいに戻るのはいつ?
6月4日、羽田空港第2ターミナルの搭乗ゲート(撮影:鳥海高太朗氏)
海外の渡航に関しては、各国の入国制限が解除されるまでは見通しが立たない。コロナ制限解除後の海外旅行は早くて今年10月、遅いと年明けが想定される。現状復帰には3年が必要だ。
しかし国内線は乗客が戻りつつある。新型コロナウイルスの感染者がこのまま増えないとの条件つきではあるが、かつての光景が戻るのはいつ頃になるだろうか。航空・旅行アナリストの鳥海氏は語る。
「6〜7割程度の乗客復帰は、早ければ9月ぐらい。政府が観光需要を喚起するために行う『Go To キャンペーン』は8月からの実施です。約1.7兆円規模の企画なので、お盆の時期から人の流れが出てくると思います。航空会社は7月に乗客5割復帰に戻し、8月からはもっと便数が飛ぶでしょう。『Go To キャンペーン』は来年春まで続くので、2021年春には通常の8〜9割の人出に戻っているといいですね」(鳥海氏)
一部の大手企業では、まだ出社が許されていない会社もある。新型コロナウイルスの感染拡大は、テレワークの可能性を広げ、対面なしでも仕事はある程度進むことが露呈した。出張需要はやや減少傾向が予想されるが、それだけに言外のコミュニケーションが重要になる出張の意義も新たに問い直されるのかもしれない。
取材協力 鳥海高太朗
航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。
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(取材・文 横山由希路)